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飲める泥

飲まない方がいいです

三題噺『学校の七不思議〜開かずの間編〜』

 中学三年生の頃に書いた三題噺をUSBの中から引っ張り出したので供養と、初心に返る意味を込めてここに原文のまま掲載します。お題は開かずの間、ホラー、マカロンでした。懐かしいなあ。

 以下本文です。

 

 

「《開かずの間》を開けようじゃないか!」

「はぁ?」

 唐突すぎる鮎川の発言のせいで俺はタコさんウインナーを床に落としてしまった。

「いや、だから《開かずの》

「黙れ。ウインナー返せ」

 今日のタコさんはチーズ入りだったのに……。俺は涙をこらえてタコさんをティッシュに包み、ゴミ箱へ持っていく。合掌。タコさんよ、どうか鮎川のような奴のいない平和な世界で安らかにお眠りください。なむなむ。

「鮎川。俺はお前の幼馴染みとしてお前の痛い電波的な発言を大量に聞いてきた。けれど何だ、今回はいつも以上にベタで幼稚で季節外れじゃないか。ハロウィンするならカボチャだぞ」

 仮装大会の方がまだ良かった。俺はやらないけど。

「よく聞け、初瀬。俺は、学校の七不思議を暴きたいのだよ」

 うっとりしたように語る鮎川。うぜえ。

「っていうか、うちの学校に七不思議なんてあったのか?」

「えな初瀬。これは三十七人中二人が知っている有名な噂だぜ?」

「ほとんど知らねえ奴が大多数だろ!」

 クラスで二人しか知らないものを有名な噂と呼んでいいのだろうか。俺が三人目になってしまうのか。

「フッ。初瀬くんごときになめられるなんて、私も落ちぶれたものね」

 そう言って話に割り込んできたのは竹田千沙子だった。

「《開かずの間》はね——本当に、あるのよ!」

「何故ためる」

「姐さん、初瀬の野郎にガツンと言ってやってください!」

 鮎川のキャラは崩壊していた。竹田はわざとらしく咳をしてから話し始めた。

「あのね、初瀬くん。あなた旧校舎に行ったことある? ないでしょう? うん。それでね、その旧校舎の一階の一番北側に調理室があるの。それでね、」

 以下略。長い。長すぎる。つまり、二十年前に調理部に所属していた生徒が、調理室の点検を行っている途中、突然姿を消してしまったらしい。それから、その調理室は毎日彼女の消えた時刻から二時間開かなくなってしまったそうだ。

「旧校舎なら開かなくてもいいじゃないか」

「諦めたら、そこで試合終了だよ」

 うぜえ。鮎川のドヤ顔マジでむかつく。

「そんなに開けたいならお前らだけで行けよ。俺、今日豆腐買って帰らなきゃなんねーから」

「行こうぜ!」

「行くべきでしょう!」

「行かなきゃ男じゃないぜ!」

「行けばたちまちモテモテよ!」

「大丈夫、俺がいるから怖くないさ!」

「がんばれ!」

「黙れ。……行けばいいんだろ、行けば」

 仕方ない。こうやって俺が折れるのはいつものことだ。

 

 

 そして放課後。午後四時丁度。俺、鮎川、竹田の三人は旧校舎の前にいた。

 夕方で太陽も沈みかけているとはいえ、大勢の生徒が部活動に勤しんでいるため結構騒がしい。全く《七不思議》云々という感じではない。

「さっさと入ってさっさと終わらせるぞ」

「!」

 二人はノリノリだった。

 中はやはり旧校舎らしく薄暗くて、歩く度に埃が舞った。教室は物置として使われているらしく、机やら椅子やらが大量に積んであった。

 すると突然「すみませーん!」という甲高い声が聞こえた。

「おい、行くぞ!」

 声の主は奥の方から「すみませーん! 誰かいませんかー!」を繰り返している。奥ということはどうやら例の調理室にいるらしい。

 俺はガラリと戸を開けた。そこには今にも泣き出しそうな表情をしたセーラー服の少女がいた。

「どうしたんですか?」

 すると彼女は、「お気に入りのハンカチが、風のせいで木に引っかかってしまって」と恥ずかしそうに言った。窓を見ると水色のハンカチが枝に引っかかっていた。俺は腕を伸ばしてハンカチを取ってやった。

「ありがとうございます!」

 彼女は頭を下げると「お礼」と言って俺にマカロンを渡し、調理室を出て行った。

「はぁつせぇー!」

 鮎川と竹田が彼女と入れ替わるようにして入ってきた。

「ちょっと、大丈夫なの?」

「大丈夫も何も、俺はたださっき出てった子のハンカチを取っただけだぜ。すれ違わなかったか? セーラー服の子」

「はぁ? 誰ともすれ違ってなんかいないわよ」

 何だろう。急に寒気がしてきた。

「ど、どういうことだよ」

「だからさ、俺らは初瀬を追ってここまで来たんだけど、戸が開かなくて。そしたら今やっと開いたから」

「それにセーラー服ってどういうこと? 私たちの制服はブレザーじゃない。普通は他校の生徒がわざわざ旧校舎に入るなんてないはずよ。まさか幽霊でも見ちゃったとか?」

 俺は尻餅をついてしまった。

「……意味、わかんねえ」

 何だか頭痛までしてきた。

「あー! 初瀬が美味しそうなもの持ってる!」

「うわ、マカロンじゃん。幽霊にもらったの? 冥土からの土産ってところかしら」

 もう二度と旧校舎には入らない。そう誓って俺は逃げるように調理室から出て行った。

 

(終)